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最高裁判所第二小法廷 昭和43年(あ)1407号 判決 1969年7月11日

主文

原判決および第一審判決を破棄する。

被告人は無罪。

理由

弁護人渡辺大司の上告趣意のうち、判例違反を主張する点は、引用の各判例は、本件と事案を異にして適切でないから、所論はその前提を欠き、その余の論旨は、単なる法令違反、事実誤認の主張であって、いずれも適法な上告理由にあたらない。

弁護人小泉栄之助の上告趣意は、事実誤認の主張であって、刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。

しかし、所論にかんがみ職権をもって調査すると、原判決および第一審判決は、後記のように刑訴法四一一条一号、三号により破棄を免れないものと認められる。

原判決が維持した第一審判決が確定した事実は、被告人は、農耕作業用自動車の運転業務に従事しているものであるが、昭和四〇年一一月一四日午前一一時五分頃農耕作業用自動車(以下農耕車という)を運転し、福島県岩瀬郡鏡石町大字成田字宿屋敷一番地会田稔男方宅地内を右斜に進行し須賀川市から矢吹町へ通ずる道路に出るに際し、右道路の右方は右稔男方住家のため見通しが困難であるので、自動車の運転者としては道路の手前で一時停止して安全を確認すべき業務上の注意義務があるのに、被告人はこれを怠って右道路上に進出した過失により、折柄右方道路から軽二輪自動車に乗って進行して来た丹内四郎の左膝辺等に自車前部を接触同人を路上に転倒させ、よって同人に対し側方動揺性屈曲制限荷重痛の後遺症を残す開放性骨折(左膝蓋骨大腿骨外顆)左膝外側々副靭帯損傷兼半月板損傷の傷害を負わせた、というのである。

ところで、第一審判決が証拠として掲げている第一審検証調書、証人有我一男の供述および第一審裁判所が適式に証拠調をした被告人の検察官に対する供述調書ならびに第一審第二回公判期日に証人として取り調べられた巡査部長小林保矩の証言によれば、被告人が本件事故直前に進行していた場所は、会田稔男の私有地ではあったが、道路との境界を区画するものはなく、むしろ道路状をなして何人も自由に通行できる状態にあったというのである。そうすると、右部分は、被告人の進行していた農道と、被害者の進行していた道路とが丁字形に交わる北東角にいわめるすみ切りが施されている状態と同様であったとみられないことはない。そして、道路交通法は、二条一号で「道路」の定義として、道路法に規定する道路等のほか、「一般交通の用に供するその他の場所」を掲げており、たとえ、私有地であっても、不特定の人や車が自由に通行できる状態になっている場所は、同法上の道路であると解すべきであるから、右部分は、同法上の道路であったと認めるべきである。

被告人が右折する際進行していたところは、前述のように、道路もしくは交差点の一部とみるべき場所であるから、被告人は、交通整理が行なわれておらず、左右の見とおしもきかない本件交差点に進入する車両の運転者として、道路交通法四二条に従い「徐行」すれば足り、一時停止まですべき義務はなかったものといわなければならない。そして、第一審で取り調べられた被告人の司法警察員および検察官に対する各供述調書によれば、事故当時の被告人の農耕車の速度は時速約一〇キロメートルであったと認められ、右速度は、道路交通法二条二〇号の「直ちに停止することができるような速度」と認められるから、被告人には同法四二条の徐行義務違反の事実はない。

そうすると、被告人に一時停止の義務のあったことを前提として、業務上過失傷害の罪の成立を認めた第一審判決およびこれを維持した原判決は、法令の解釈適用をあやまったかもしくは事実を誤認した結果、被告事件が罪とならないのに、これを有罪としたものというべく、右違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであり、刑訴法四一一条一号、三号により、これを破棄しなければ著しく正義に反するものと認められる。

よって、同法四一三条但書、四一四条、四〇四条、三三六条により、裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 草鹿浅之介 裁判官 城戸芳彦 裁判官 色川幸太郎 裁判官 村上朝一)

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